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「宇宙では老化速度が低い?」 小型衛星における顕微鏡アプリケーション(IDS社)による人間細胞の研究

ドイツのデジタル産業用カメラメーカー、Imaging Development Systems Gmbh(以下、IDS社)は、モジュール型で強力なUSB、GigEカメラおよび3Dカメラを開発し、多彩なセンサーとモデルを取り揃え世界中に販売する中、スイス内の大学から宇宙探査に関心を持つ学生が集結し編成されたチーム(aris Academic Space Initiative Switzerland)が、人体の老化プロセスが宇宙ではどのように変化し、細胞の老化が加齢および年齢に関連する障害の進展にどのように影響するかを調査しようとしている。このCubeSat(小型衛星)ソリューションの中心にあるのが蛍光顕微鏡で、マイクロ流体チップと、IDS社・uEye XLEファミリーの高解像度USB3カメラが搭載されている。

宇宙探査の重要性は増しており、宇宙に飛び出す飛行士は増え続けているが、無重力空間は人体の加齢にどのような効果を与えるのだろうか。月や小惑星などにおける微小重力条件では、特定の細胞はどのように発達するのだろうか。SAGE(Swiss Artificial Gravity Experiment/スイス人工重力実験)はこの研究タスクに特化して取り組んでいる。若手の研究者たちは、現在、対応する生物学的実験のための衛星プラットフォームの構造を設計しているが、これは極めて厳しい要件を満たす必要がある。完全に自動化されたシステムは、必要な宇宙環境における長期的なテスト現場となり、研究対象の人間の細胞株の遠心機として機能する。人体では、加齢プロセスは細胞レベルで発生し、これを老化と呼ぶ。これは、細胞が分裂を停止し、炎症因子を分泌する現象で、「NASAやそのほか世界中の多数のグループによる調査に基づき、細胞は、地球上よりも微小重力環境にあるほうが老化は遅いと信じるに足る理由がある」とSAGEペイロードエンジニアは話す。さらに、「この影響を、細胞の加齢に伴って放出される特定のタンパク質とmRNAで測定できる。メッセンジャーRNA(mRNA)は、細胞老化の促進または防止の基本的な因子として登場した。蛍光マーカーにより、このmRNAにラベル付けし、赤色光を照射すると光るようになる」とした上で、「実験は2ヶ月にわたって、わずか10立方センチの体積を対象に行われた。これらの条件のもとで必要なプロセスを測定および分析するため、信頼できるコンパクトな蛍光顕微鏡が必要である」と続ける。

ラボのテストでは、U3-38J1XLE-C-HQが顕微鏡で使用された。カメラはマイクロ流体チップに置かれた人間の細胞から蛍光mRNAを撮影する。マイクロ流体チップにより、複雑なラボ機能を一つのチップにミニチュア化して統合していく。これにより省スペースが実現し、試料の必要性が削減される。マイクロ流体チップには刻まれた、または形成されたマイクロチャネルがあり、これを通じて分析対象の流体が流れる。マイクロ流体チャネルを使用すると非常に少量の試料で済む。「このようにして獲得したデータは非常に有意義で科学的に重要であり、このような方法で実施された研究は今までなかった」と続ける。

今後の予定では実験は3年間を予定しており、調査結果に基づいていろいろなシナリオが考えられる。まず、たとえば科学者は、特定の治療法が宇宙飛行士の健康を向上させるかどうかの確認を望むが、老化細胞は認知症、動脈硬化、糖尿病、関節炎など特に高齢の人々にとって、生活を困難にする幅広い障害の原因ともなる。さらに腫瘍の進行にも関与すると考えられている。ある調査によると、SARS-CoV-2も老化の一因となると考えられている。これは新型コロナウイルスの後遺症の持続的症状を説明するものとされており、SAGEは、可能性のある治療法に対する興味深いアプローチをもたらすと思われる。

◀必要なプロセスの測定・分析には信頼できるコンパクトな蛍光顕微鏡が必須