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オーエスジー デザインセンター 宇宙部品開発担当 藤井 尉仁 氏

<ロングインタビュー>

オーエスジー デザインセンター 宇宙部品開発担当 藤井 尉仁 氏

約1年ぶりに、藤井尉仁氏がロングインタビューに登場(2024年2月/Vol.2参照)。藤井氏は、総合切削工具メーカのオーエスジー(本社=愛知県豊川市、大沢伸朗代表取締役社長兼COO)で、デザインセンター グローバルエンジニアリンググループ プロトタイプチームリーダーとして「宇宙部品開発担当」を務める。同社が宇宙ビジネスに参入したのは、微小デブリ計測衛星「IDEA OSG1(イデア・オーエスジー・ワン)」の取り組みがきっかけ(2015年/アストロスケール社)。以来、製造業として、宇宙分野でのさらなる事業拡大を目指す中、現下の取り組み状況を聞き、2024年の宇宙業界を回顧してもらった(敬称略)。

「加工単価に相場はない、受注の取り方次第」

――宇宙関連は儲かる?

藤井:元々、製造業として新しい分野の仕事に取り組むことは当然ですが、オーエスジーの部品加工部門は、従来から、自動車分野を中心に事業を展開しており、こうした基盤が整っていたことで、宇宙関連部品のビジネス展開にも取り組めています。

宇宙関連は儲かるの? と聞かれれば、宇宙部品をつくっているだけでは、正直、「ハイ」とは即答できないのが実感です。要因としては、多品種小ロットで生産効率が良くないことが挙げられます。ただし、「受注の取り方次第」という面もあります。

自動車部品に比べれば、宇宙部品の単価は高いと思います。試作メーカの利益率レベルに近いと思う。宇宙部品では加工単価の相場というものはなく、通常の部品製造と同じです。

自動車部品業界では、専門分野の部品加工メーカが多く、経験やノウハウ、工具や治具などが備わっているので、新規ラインの仕事でも立ち上がりが早いですが、宇宙部品加工においては、そういったベースが少ないため、ゼロからの取り組みになり厳しい状況です。宇宙部品は全体的に短納期で、納期設定により価格が決まるケースもありますが、利益を出すことが難しいことも多く、参入への障壁になっていると思います。

従来は、多品種小ロット生産が主流でしたが、現在は、宇宙分野のビジネス拡大に伴い、量産の仕事が受注できるような営業活動や体制づくりに注力しています。市場では、宇宙ビジネスの規模拡大が指摘されており、対応していけるように準備を進めています。

宇宙ビジネスの市場は4倍に拡大されるといわれていますが、現段階ではその実感は、まだありません。ただ、政府が関係する大きな仕事は、計画立案から事業がスタートするまで時間がかかります。立ち上げてから、3年~5、6年ほどの期間は必要です。

「安くする必要はないが、安くつくる方法を考える」

――オーエスジーが選ばれる理由

藤井:当社が受注できる、選ばれる、期待される理由として、部品加工の技術に加え、コミュニケーションの良さだと自負しています。何より、宇宙分野の関係者とコミュニケーションを取ることが重要です。ほとんどが経営者でありながらオペレーションもされているエンジニア・マネジメントの方が多いです。直接会って話をしていると、設計方針から加工、価格、納期まで、その場で話ができ、そこで受注内容が決まることが多いので、「ふれること」「ふれあうこと」が決め手となります。

また、当社の「ワンストップ・プロセス」の対応も評価されています。「こんなものができないか?」との打ち合わせの段階から納品まで、オーエスジーに任せていただければ、全て対応できる仕組みです。モデル設計から、つくり方や、つくりやすさ、表面処理やねじなどの部品・部材も装着して納品まで、全て対応できるので、得意先からは便利だと重宝されています。当社もその機能向上のため、さらに努力しています。

こうした機能を発揮するとともに、NeSTRA(次世代宇宙システム技術研究組合/横浜市)の活動を通じて、プロジェクト関連の仕事を直接取引できる取り組みに注力しています。

現在、得意先の主力は、オービタルエンジニアリング(横浜市)様で、同社を通じて受注活動を展開しています。オーエスジーとしては、企業間での価格競争のビジネスには関与しない方針です。得意先と長く付き合うことで、会社の目的や方針が分かってくるので、設計や加工方法など、スムーズに対応でき、加工時間や製作時間の短縮を実現しました。

オービタルエンジニアリングの山口耕司社長からは、「安くする必要はないけど、安くつくる方法を考えて」といわれています。互いに工夫し、改善に取り組むことでコミュニケーションも深まり、信頼関係もより向上し、ビジネスにも反映します。

さらに、オービタルエンジニアリング様からは、「生産余力の情報共有」についても評価いただいています。切削加工等の工程管理の面からも、生産余力の情報を共有化することで、取引関係も強固になります。

 ――オーエスジーの強みとは

藤井:「仕事がキレイ」と評されることが、当社の強みといえます。加工精度はもちろんですが、部品の削り上げや状態がキレイだといわれます。

私自身、若いころから金型加工等に携わり、深掘切削加工などが得意で、プログラム作成や切削条件設定の経験もあり、部品加工では優位性を発揮できています。

当社では、JIS規格による工作機械など工場設備の管理を徹底しています。協力会社でも機械設備も管理しており、機械を指定し、品質管理を実施しています。基本的に「CAMの使用、マシニングセンタでの穴あけ加工」と規定しています。以前は、協力会社では作業者の技量により加工精度が不安定になってしまうケースもあったので、現在は協力会社への品質管理に徹しています。

宇宙部品では、アルミニウム合金素材での削り出しなども多いため、加工中にも仕上がり条件が判断できることを織り込んだ設計図面を作成するなど、ものづくりの取り組みを実施し、徹底管理しています。

品質管理は、クリアする基準を明確にしながらも、現場でいかに分かりやすく簡素化させるかが大事です。図面のひき方では、CAMの使用を規定していますが、面粗さや仕上げ加工の目安も具体的に図面に表記しています。例えば、キレイに削るという度合いも、人の感覚で違いもありますが、過剰品質にならないように、基準を明確に数値化して指示しています。

難しい測定では、顧客要求に対応するのは当然ですが、当社では高精度な測定機を備えているほか、工作機械には全てタッチプローブを搭載しているため、機上にて一気通貫の測定が可能です。加工中や加工直後での測定も可能なため、工程集約や労力削減にも貢献できます。

さらに、得意先からは、「急ぎの案件でも対応できる」と定評があります。宇宙部品は、様々な要因で設計段階での変更により製作が遅れる場合が多く、短納期の要因になっています。こうした短納期に対応できるのも当社の強みです。

――2024年の宇宙業界を振り返って

 藤井:JAXA宇宙戦略基金(10年間で1兆円規模)による動きが活発になり、具体的なプロジェクトも一気に出てきたと感じています。当面は、開発と打上げへのテスト機、実験機など、実施に向けた動きが本格化する見通しが明確になってきました。

宇宙での利用の拡大方法では、通信や送電、探査などの分野での開発の動きは加速する見込みです。宇宙飛行士の方々や、宇宙分野で活躍している方々に引っ張っていただくことで、宇宙業界全体が盛り上がればと思っています。

宇宙関連の展示会やイベントでは、すぐにビジネスには繋がらなくても、「おなじみ」になることが大事です。人間関係を深める、広めるには絶好のチャンスです。

また、「ワンストップ・プロセス」の関連でいえば、今後は、解析に取り組んでいきたいと思っています。熱解析、振動解析に取り組めるようになると、頭(上流工程)で稼げるようになる。特に、ロケットの模擬試験などでは、振動は今後やらなくてはいけない重要な課題です。

今年のH3ロケット2号機の打上げ成功は、量産化へのスタートとなったといえます。このロケットに搭載されているオービタルエンジニアリング製のキューブサット放出ボッドには、オーエスジー製の金属部品が採用されています。

H3ロケットは量産化を目的としており、宇宙部品加工でも、念願の量産への道が大きく開いたと思います。その意味では、2024年は、「宇宙部品の量産化への第一歩」となりました。


「宇宙関連の催しでは『おなじみ』になることが大事、人間関係深耕の大チャンス!」と藤井氏

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