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花咲いた「NASA×三井精機」ストーリーを紐解く 宇宙望遠鏡の重要パーツ「主鏡」を加工

ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)が昨年12月25日に打上げられ、観測を開始し、今年7月には、初めて撮影した遠方の星や銀河の画像が公開された。

ハッブル宇宙望遠鏡(1990年打上げ)の後継となるJWSTは、NASA(アメリカ航空宇宙局)、ESA(欧州宇宙機関)、CSA(カナダ宇宙庁)の共同プロジェクトで、25年の歳月と1兆円以上の費用をかけた大プロジェクトだ。その望遠鏡の重要パーツである「主鏡」は三井精機工業(以下、三井精機)の横形マシニングセンタによって加工された。

■JWSTとは

宇宙は膨張しているため、遠方から来る光は波長が引き伸ばされて赤外線になる(赤方偏移)。また、可視光線では銀河を取り巻くガスや塵が障害となって観測ができない場合がある。そこで、これらに対応するためにJWSTでは赤外線を捉えて遠方の星や銀河を観測する。

わずかな赤外線を捉えるため、JWSTは巨大な「鏡」を持っている。直径は6.5mあり、これはハッブル宇宙望遠鏡の鏡(直径2.4m)と比べて7.3倍の面積がある。 この主鏡は1.3mの鏡18枚によって構成される。

主鏡の材料はベリリウムといい、あまり聞かない材料だが、強度と質量の関係や宇宙空間の特殊な環境への対応のため、さまざまな材料がテストされた結果、ベリリウムが採用された。

■JWSTは「タイムマシン」

光は宇宙最速だが、1秒間に約30万㎞という速度がある。例えば、太陽と地球の距離は1億4960万㎞あるので、太陽から出た光が地球に届くまで8分19秒かかる。ちなみに新幹線の速度では57年かかる。いい換えれば、私たちが目にしている太陽は8分19秒前の姿であるわけだ。

地球と星や銀河との距離が遠ければ遠いほど光が届くのに時間がかかるため、それだけ星や銀河の過去の姿を見ていることになる。遠い星や銀河を見ることができれば、宇宙の歴史を見ることができるかもしれない。

宇宙は約138億年前に「ビッグバン」といわれる大爆発から始まったとされている。最初の星が誕生したのがビッグバンから約3億年後で、JWSTはここを観測することを目指している。さらに、銀河の形成過程や恒星・惑星の誕生、地球以外にも生命は存在するのかという宇宙の壮大な謎に迫る。

■米Axsys社に採用

主鏡の機械加工を担当するのはアキシス・テクノロジーズ(AxsysTechnologies)社で、18枚の主鏡(実際には予備3枚を含めて21枚)を加工するためだけにアラバマ州に新工場を建設した。

加工機は世界中から探して検討した結果、三井精機の横形マシニングセンタ『HS6A』(現『HU100』)が選定され、2004年に8台の機械が納入された。

数ある工作機械メーカーの中から三井精機が選ばれたのは、第一に、要求される厳しい精度に対応できること。第二に、その精度が安定して保てること。第三に、機械の信頼性が高いこと、などである。機械1台だけでも大変厳しい精度が要求されるが、8台の機械すべてにおいて、ばらつきのない安定した高精度を保たなければならないということは至難の業だった。

1枚の鏡の機械加工の完了までは約半年もの時間がかかり、この間、機械の精度が変化したり故障したりすることは許されない。いかに精度と信頼性が重要かということの理由である。

■NASAからの礼状

このプロジェクトを総括しているNASAのゴーダード宇宙飛行センターから、MITSUISEIKI USA(三井精機の米国子会社)宛てに礼状が届いた(2004年4月)。この礼状の要旨を紹介すれば、次のとおり。三井精機に対するNASAの期待が感じられる。

「MITSUI SEIKI(USA)社長 スコット・ウォーカー様 /
James Webb Space Telescope(JWST)プロジェクトに必要なベリリウム製反射鏡装置の製造のために三井精機がAxsysTechnologiesより最近大型のマシニングセンタを受注したことに対して喜びに耐えません。

・・・・・・(略)三井精機の機械はAxsys Technologiesでこれらの鏡を軽量化するのに重要な役割を担うキーとなります。
・・・・・・(略)AxsysTechnologiesに三井精機の機械を予定通りに納入することがJWSTプロジェクトを計画通りに遂行する上で非常に重要なキーをなることを強調せざるを得ません。今回の受注を喜ぶと共にJWSTの重要な光学の開発が計画通り遂行するために最大限のサポートと努力を期待します。

/リー・フェインベルグ NASAゴーダード宇宙飛行センター」

■期待以上の加工結果

主鏡の加工は、すべて完了するまで当初は3年を予定していた。しかしHS6A横形MCの能率が想定していたよりも高く、2年ですべての加工を完了することができた。

加工品質についても期待以上の結果となった。鏡の平面度は5μm以内の要求に対し、最大で4μmだった。同様に穴ピッチ精度、直角度の最大誤差も5μm以内を実現した。この精度は機械1台のみの誤差ではなく、8台の機械すべてにおいての最大誤差であり、これは特筆すべきことといえる。

三井精機が18年も前に蒔いた種が、いま、見事に花咲いたストーリーを紐解いてみた。

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